緑の中の親子
春の丘の緑がまぶしい。風が光り,木々が笑っている。丘の坂道を三人の子供たちがはしゃぎながら登ってくる。一つの花を摘んでは跳ねて踊り出す。もう一人の子が同じ花をさがして,辺りを見渡す。その真剣な眼差し,その仕草。母親は黙って後を着いて行く。ルノアールの『草むらの坂道』に描かれている情景を思い出していた。初夏の緑の中で,花のように揺れているあの赤いパラソル。
わたしは丘を下る。しばらくして振り返ると,子供たちの声が風に乗って,ずいぶん高いところから聞こえてきた。緑の中の親子は,何であんなに幸せそうに見えるのだろう。
*
人が緑の中で安らぐのは,植物が光合成を行った38億年前の記憶がささやきかけているからだ。ひとはもともと木の上に暮らしていたのだから,森に分け入って行くとワクワクするのは当然だ。森に妖精が住んでいても,不思議なことではない。
宮澤賢治は,お話を林や野原や鉄道線路やらで,虹や月明かりからもらったというし,聴力を失ったベートーベンが作曲できたのも,森のインスピレーションによるという。
木が発する化学物質フィトンチッドが,グリーンシャワーとなって降り注いでいたからに違いない。
空を映すのは,水を張った田んぼ。畦にたたずむ親子がいる。女の子が魔法瓶を抱えるようにして,少し背伸びしながら,お母さんにお茶を注いでいた。お母さんはしあわせそうにみえた。腰に手を当てて,だまって湯飲みを差し出していただけだったが。
あの子が,すっかり大人になって都会暮らしをするようになっても,お茶を持って,母の元に帰るだろう。なつかしのグリーングリーン グラス オブ ホームへ。
思い出のグリーングラス
汽車から降りた小さな駅 帰った私を迎えてくれた
思い出のグリーングリーン グラス オブ ホーム
『グリーングリーングラスオブホーム』は、都会暮らしに疲れた娘が、故郷の母の元に帰ってくる歌である。夢に破れて傷ついた彼女を緑の草原は、限りなくやさしく迎えてく
れるだろう。
緑の中で、人は大地のゆりかごに揺られながら、いつも心を癒している。







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