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2008年2月15日 (金)

トーテムポールの村

  File0008

むき出しの自然と共に生きている人々が見せる喜びの表情にはっとさせられる。本当の生きる喜びは辺境の人々にしかないのだろうか。
トーテムポールの建つ場所にやってきた。
 てっぺんで羽を広げたハクトウワシが,あたりを睥睨している。箱を載せたトーテムポールはお墓だ。あんな高いところにあれば,獣なんかに襲われることもないだろう。時代に古びたトーテムポールの上で,ハヤブサが,風に流されながら雲のかなたに消えていった。
 
 トーテムポールという舞台に,森をうろつく男やクマになりたかったリスが登場してくる。中には泣いている女の子もいた。昔,少女はお兄さんに,「鹿を獲ってきて」と頼んだ。狩に出かけ兄は,吹雪きに巻き込まれて死んでしまった。少女の涙は悔恨の涙だった。
 森の豊かな物語は,遠い空から木の葉に乗って,舞い降りてきたのかもしれない。言葉というくらいだから,葉に事寄せるのは当然ともいえる。
 File0009 ネィティブの人たちは、政府の方針によって定住させられている。 時計や電話など持たずに,森に入って精霊の声を聞いて暮らしていた彼らの生活はどうなるのだろう。酒と毛皮を交換して,酒におぼれてしまったインデアンの話をよく聞く。このままではトーテムポールの民族の誇りは,木が朽ち果てるように倒壊しまうかもしれない。トーテムポールは黙したまま民族の歴史を語るのみだ。その姿が,寂しげに見えるのは,ぽつんと取り残された悲しみだろう。
                    *
 サケの孵化場を回って,丘の一軒家のレストランに行った。
「ええー,出来ますものは,ムースのシチュー,こりこりした子持ちコンブ,イクラの青海苔漬け,シャケの薫製でございます」。ヤッホー,これぞインデアンの伝統料理。
 デザートはソープベリーのアイスクリーム。これが絶品,いや絶句。苦いのだ。野趣に富んだ料理を食べて,すっかりワイルドになり,血が騒ぎ,クマでもなんでも出てこいと叫んだ。それにしてもインデアンテントを張って,焚火のまわりで夜を過ごしたかった。
File0010  帰りの道にサッカー場があった。観客席50,天然草の柴には人っ子ひとりいない。今度の試合はいつなのだろう。
 雲行きが怪しくなってきた。ロッキーの谷にあるスミサーズへ双子の滝を見に行った。道は細く,この先,本当に滝などあるのだろうか。雪が振り出してきた。とぼとぼと足取り重く歩く。ガマズミやナナカマドが雪を乗せて,赤い実を隠していた。犬がよたよたとついてくる。なんでこんな山の中に犬がいるのだ。
 とつぜん森が開け,見上げる岩山の右と左に双子の滝が流れ落ちていた。滝の上は雪雲に巻かれている。稜線に雪煙が上がっている。冷え冷えとした風景を前にして,ぼくはテント暮らしなどしたくないと思った。夜中に怪鳥ホーホクが出てきたら困る。あんな大きなくちばしで襲われたらひとたまりもない。クマだって,オオカミだって,お近付きになってほしくない。嵐も吹雪きも真っ暗闇も避けたい。
 自然の脅威にさらされてこそ,感覚は研ぎ澄まされるというのに,何とひ弱なことか。森の動物たちと一体になって,精霊の声が聞けるようになるまでには,あと100年はかかる。

 

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