ルーマニア 木の教会
ラダウツィからトランシルヴァニアへ向かう。トランシルヴァニアの響きがいい。遥か彼方を感じさせる。カントリーロード、緑に埋まる村、煙突から煙棚引き、キャベツ売りの少女が牛をひいて行く。もうぼくは、ほとんど涙ぐんでしまった。そのうちに空まで泣き出してきた。もらい泣きかもしれない。
清澄な川がずっとお供をしてついてくる。バスが行くほどに森は深まり、樅の樹が雨にけぶる。冬の季節ならば、みなクリスマスツリーになるだろう。
やっとプリスロープ峠に着いた。標高2004m、道祖神が雨の中に立っていた。牛が一頭、モォーと出迎えてくれた。霧の間にトランシルヴァニアの山々が見渡せる。マラムレッシュはあの向うらしい。なんという僻地なのだ。水窪の兵越峠を越えた遠山郷みたいだ。山道を延々と走り、やっとの思いで、ボクダン・ヴォーダの木の教会に着いた。
柿葺きの急な屋根が鱗のようだ。ハンガリーが支配していたころ、石の教会は立派すぎるからだめだといわれて、やむなく樅の樹で教会を建てたという。それでよかった。こんなにもやさしく高貴に満ちた教会が、丘の上にいくつも残ったのだから。
教会の木肌は、400年の歳月にさらされて銀色に底光りし、日本の古いお寺を見ているようだ。釘を一本も使わず、木組みによって建てられているのも、法隆寺や薬師寺みたいでいい。塔が、空に突き抜けんばかりにすっくと立ちあがって、樅の木のよう。裳腰に当たる屋根が、ひろやかに庇を延ばしている。のっぽの教会は、どこからでも仰ぎ見ることができる。村のランドマークだ。村人は、朝な夕なに、鐘の音を聞き、祈りを捧げる。








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