ブータンの森 1
ブータンの森は新緑の季節を迎えていた。全山シャクナゲの真っ盛り。赤、紫、橙、白とまさしく色とりどりの花が咲き乱れてヒマラヤの峰々を飾る。
いくつ峠を越えても、やわらかな緑は途切れることなくどこまでも続いている。三遠南信の森とおんなじ。春ゼミが鳴いていた。ぼくは子供の頃、森の子だった。シイやカシがうっそうと茂る照葉樹林が遊び場だった。そんな思いもあって、ブータンと少年期がダブる。モクレンの白い花、苔むす樹皮に触れると、あのときの森がよみがえってくる。
「あの弦はターザンごっこには絶好だぜ。アアーアとぶら下がって、あちらの枝に乗り移ろうか」。
「なに言っているのよ、谷底まで100メートルあるわよ」と言われて断念する。
大樹の幹にランの花が着床していた。サルオガゼが、おぼろ昆布のように木にまとわり付いている。中には立ち枯れているのもあって、なんともうっとうしい。山ビルに食いつかれたり、魔物に襲われたり、森は手強い。でも薬草の宝庫でもあり、ヒマラヤ五葉松の下には松茸が生えるというし、ヤクも林間放牧されていて、森の恵みは計り知れない。クロンチュ・サンクチュアリの人たちが、サフランライスで歓迎してくれた義理もあって、ぼくは森の味方となる。 それにしても焼き松茸を食べたい。8月にならないとだめだそうだ。青いケシ(ブルーポピー)もまだ咲かず、真っ赤なトンガラシは秋だし、いっぺんに季節が巡ってこないかなあ。『森は生きている』で、むすめが真冬にマツユキソウを手に入れたように。でも1月から12月までの月の精が森の中に勢揃いするのは、大晦日の晩だから無理かもしれない。あの話のねらいは、森での経験を通して謙虚さを学ぶことだった。








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