照葉樹林文化の展開  

 

 映画『山の郵便配達』が歩いた道は、照葉樹林の道ではなかっただろうか。あのこんもりした森に懐かしさを覚えたのは、故郷の森を映画に見たからだと思う。
 照葉樹林というのは、シイ・クス・カシ・ツバキ等の常緑広葉樹を主とする樹林のことです。葉は冬でも深緑色のままで、葉の表面がてらてらと日に照らされています。葉に光沢があるから照葉樹林と呼びます。暖地性の木が多いので、西日本から三遠南信、関東地方の海岸付近にかけて分布しています。
 遠州の森は鎮守の森にしろ、里山にしろ、もこもこと生い茂っています。子供の頃、遊んだ森は空を隠してうっそうとしていました。これが照葉樹林の特色です。遠州地方の台地の縁に立つと、丸い森がいくつも見られます。森の中で椎を拾う子供たちの声が今でも聞こえてくるようです。
 1957年、京都大学の中尾佐助教授がブータンの森を歩いていたとき、日本の森とえらく似ているなあと思いました。照葉樹林帯の発見です。それはヒマラヤのふもとから中国の雲南を通って、長江流域、さらに西南日本まで帯となって延びています。アジアの温暖多雨地域と一致します。
 照葉樹林地帯は驚くほど共通の文化を持っています。茶・ソバ・納豆・なれ鮨・豆腐・コンニャク・酒・味噌・山菜。故郷の味と言われるほとんどの食べ物が、照葉樹林に源を発しているのです。三遠南信で木の実やソバの食文化が発達していることに思いが行きます。
 食べ物だけでなく、羽衣・サルカニ合戦・花咲爺などの昔話、さらに鵜飼いがそうです。絹織物・草木染め・紙漉き・漆等の伝統工芸も照葉樹林から生まれました。日本の文化の古層に、照葉樹林文化が深く刻み込まれていたのです。
 照葉樹林文化は稲作文化の伝わる前からありました。その最たる特色は焼畑です。緑濃い森林を、焼畑によって切り開いて、アワ・ヒエ・ソバ等の雑穀、里芋や山芋等の芋類を生産しました。山と森の生活に深く結びついた焼畑文化は、温かい西南日本に広がっていきました。
三遠南信地域でも昭和30年代まで焼畑が行われていました。夕焼けの山の斜面に白煙が立ちのぼり、赤い炎がチラチラと見えたといいます。山に火入れをするときは、山火事がこわい。秋葉信仰は焼畑の火防と結びついていきました。昔から火は畏れ多い存在であったのです。そう言えば、神に供える榊も、仏様に供えるシキミも照葉樹です。
 焼畑地域ではヤマノカミを奉ります。水窪の山住神社もそのひとつ。11月17日のお祭のとき、里芋の串やトチ餅が境内の茶店に並びます。トチ、ドングリの灰汁抜きも焼畑文化です。ワラビ、ゼンマイ等も灰汁を抜きます。
 やがて雑穀、芋から稲作へと移るようになっていきます。古くから稲作を行っていた雲南では、今でも赤米の栽培をしています。照葉樹林帯の民族は、日本のうるち米のようにねばり気がある米が好きです。餅・おこわ・団子・チマキ・五平餅。それらはハレの日に食べるのです。遠州の月見団子は、ヘソ団子と言って、平たい団子の真ん中をへこませます。雲南、ネパールのお月見はどうでしょうか。正月やお節句に餅つきが行われるのは、照葉樹林帯の共通した伝統です。
 やがて米を麹で発酵して酒を造る技術が生れます。納豆・味噌・ナレ鮨・漬物と発酵食品が多く見られるのも特色です。遠州の浜納豆もそのひとつです。
 茶・蜜柑・養蚕の源流も雲南です。漆も轆轤(ろくろ)を使う技術とともに伝わってきました。こうして見ると、遠州は照葉樹林文化の特色をどこの地域よりも受け継いでいることがわかります。
 春と秋の月のきれいな夜に、若い男女が集まってきて歌の掛け合いをします。愛情を交換するするこの習俗は、万葉の時代に歌垣と呼ばれていました。照葉樹林帯では今も見られるところがあります。
 映画『山の郵便配達』で、二人が踊りながら目を合わせるシーンは、歌垣を彷彿させました。
 浜松の加茂光廣さんは、草笛のルーツを探しに照葉樹林帯を旅してきました。入り母屋作りの茅葺き屋根、青田の中を行く農夫に菅笠が乗かっている。草笛を吹きながら村を回っているうちに、昔の日本の田舎を歩いていると錯覚したそうです。
 雲南・タイ山岳地帯・ネパールの旅先で、果たせるかな、草笛を吹く人と出会うことになります。草笛は恋する者たちを結び付けるという。加茂さんは、古代の歌垣が今に残っていることを照葉樹林の村で発見したのです。 
 思えば、雲南を中心にして、ヒマラヤのふもとから、延々と6000キロもの距離を照葉樹林文化は旅してきたのです。ネパール・ブータン・雲南の少数民族の人たちが語ってくれた生活のひとこまひとこまに、遠州の昔が甦ります。

遠州 森の学校

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